学ぶことで可能性が広がる-見つけたのは、磨き上げてきた独自技術と宇宙とのつながり

学ぶことで可能性が広がる-見つけたのは、磨き上げてきた独自技術と宇宙とのつながり

和歌山県が令和7年度から展開する宇宙まちづくり推進事業「Kii Space HUB」。事業内では、実際に宇宙産業への参入を目指す企業支援を目的として、事業創造カンパニーの株式会社ゼロワンブースターから新規事業創出に必要な知見の提供や、宇宙ビジネスのキープレイヤーとの相談機会を提供する「Action Workshop」を実施している。ここでは、参加企業から、事業に参加したきっかけや得られた学び、今後の展望など生の声を全3回でお届けする。第2回目となる今回は、長年電子機器メーカーとして事業を展開し、技術の継続的な蓄積と顧客のニーズに応じた製品化を続けてきた阪和電子工業株式会社。独自の静電気可視化技術という強みを携えて同社が見出した、宇宙産業参入への道筋とは。

今後のアクションプランをプレゼンする阪和電子工業・長谷部会長
今後のアクションプランをプレゼンする阪和電子工業・長谷部会長

はじめに、宇宙産業への参入を検討し始めた背景をお聞かせください。

弊社は電子機器メーカーとして、常に変化する技術を学び蓄積していくこと、お客様のニーズを拾い上げそれを形にするということを、事業の継続において不可欠な使命だと考えております。

特に、半導体の品質管理に不可欠なESD試験機(静電破壊装置)では国内トップレベルのシェアを築き、「グローバルニッチ技術で世界ナンバーワン」を目指すなど、専門性の追求を続けてまいりました。そうした中で、宇宙という分野は今後市場として大きく広がる可能性を秘めておりますので、当社が強みとする静電気関連事業を通じてさらなる技術の深化を図り、お客様のニーズに応えながら事業を拡大していきたいという思いから、参入を検討し始めました。

実は、宇宙関連には以前から関心を持って活動しており、数年前には衛星データを利用した防災システムなどのアイデア出しも行っていました。しかし、その当時は通信技術や表示技術など汎用的な技術で装置を構成していくようなアイデアに留まってしまい、「我々ならではの独自の世界」を構築することが難しく、中小企業としてはすぐにコスト競争に巻き込まれてしまうという課題がありました。

そこで、今回のKii Space HUBへの参加は、弊社の強みである静電気の可視化技術といった独自のノウハウを活かし、他社にはない付加価値を提供できる分野での貢献を期待して決めました。

Kii Space HUB Action Workshopでのディスカッションの様子
Kii Space HUB Action Workshopでのディスカッションの様子

Kii Space HUBへの参加を通して、最も印象的だった学びは何でしょうか。

このプログラムへの参加を通じて、得られた学びと刺激は多岐にわたります。特に、宇宙技術がすでに身近なインフラとして社会に浸透し、そのあり方自体が変化しているという事実に、大きな衝撃を受けました。最も印象的だったのは、宇宙がもはや遠い世界ではなく、現実のビジネスや生活に直結しているという実感です。

準天頂衛星「みちびき」(※1)の信号がスマート農業やゲリラ豪雨の予測に応用されているほか、「スターリンク」(※2)のような衛星通信技術が、従来の通信では繋がらなかった場所でも、空さえ見えれば利用可能になってきています。こうした動向から、今まで地上インフラが中心だった社会構造が、宇宙を介して根本的に変わりつつあるという強い印象を受けました。以前は宇宙データを活用したアイデア出しをしても、技術的に汎用性が高く、事業化には繋がりにくい側面がありましたが、今回のプログラムでは、現在進行形で技術が進化し、インフラが整備されている状況を具体的に知ることで、自社の技術を活かせる可能性を感じられるようになりました。

※1 準天頂衛星「みちびき」:日本のGPS(位置情報サービス)を補強し、高精度で安定した測位を可能にする衛星。農業や災害対応などに活用されている。

※2 スターリンク:多数の小型衛星で構築されたインターネットサービス。地上の設備がない場所でも、高速かつ広範囲な通信を提供している。

ゼロワンブースターによる講義・ワークショップの様子
ゼロワンブースターによる講義・ワークショップの様子

具体的にはどのような技術、強みが活かせそうでしょうか。

ワークの中でMFTフレームワークなどを活用して自社技術や機能の棚卸をし、その仮説を宇宙産業で活躍する多くの皆様との壁打ち機会を得る中で、長年培ってきた弊社の強みである静電気技術が、宇宙という特殊な環境下でも大きな価値を持つことに気づかされました。

月面の砂レゴリスをはじめ、宇宙空間でも静電気が問題となっているという情報を得たことは大きな発見でした。具体的には、レゴリスが太陽光や宇宙線の影響で強く帯電し、機器に付着することでセンサーの誤作動や可動部の故障を引き起こしたり、宇宙機自体が帯電することで搭載された電子機器の静電破壊リスクを高めたりするといった深刻な問題が発生していることを教えてもらいました。

これにより、弊社の強みである静電気の可視化技術や対策ノウハウが、宇宙向け装置の開発や信頼性確保に貢献できる可能性を見出すことができました。さらに、電子機器が宇宙線にさらされ劣化する問題に対応するため、半導体業界でも信頼性を高める動きが始まっており、関連学会が立ち上がっているという最新の知見も得ました。修理ができない宇宙という極めて厳しい環境下で、いかに安定した品質を保証するかは最重要課題であり、これは弊社が持つ検査・計測技術の新たな貢献領域を示唆する発見となりました。

また、事業を成功させるための考え方や文化についても、大きな学びがありました。ワークショップを通じて、「競合」ではなく、互いの強みを持ち寄り、一つの課題に皆で取り組む「協働」が宇宙ビジネスの一つの醍醐味であるという視点に触れる機会がありました。特に和歌山県内の企業とも情報交換の場を持つ中で、お互いのリソースを活かし合い、手を取り合って一つの目標に向かうことで、中小企業単独では届かない領域にも挑戦できるかもしれないという視野の広がりを感じました。

株式会社たすく・古友氏を交えたディスカッションの様子
株式会社たすく・古友氏を交えたディスカッションの様子(株式会社たすく:宇宙機器と宇宙技術を応用したシステム開発を行うエンジニアリング会社。)

Kii Space HUBでの取り組みは、御社にとってどのような変化をもたらしましたか。

今まで経験したことのない世界を経験できることへの期待が非常に大きくなりました。宇宙は未知の要素が多く、そこでの活動を通じて新しい刺激やアイデア、そして体験が得られることに胸を躍らせています。また、この分野で先駆者になれるかもしれないという期待もあります。

社内では、本プログラムへの参加をきっかけに、開発や営業のメンバーが密に話し合う機会が増え、宇宙産業への関心が高まり、新たな事業創造に向けた一歩を踏み出しつつあります。この内向きの機運が高まったことは、今後の事業推進において非常に重要だと捉えています。

この挑戦は、成功するかどうかわからない不安と表裏一体です。しかし、もしこの挑戦が成功し、弊社の技術で作られたものが宇宙で使われるということになれば、非常に大きな満足感と希望が持てるはずです。

株式会社ゼロワンブースター:「事業創造の力で世界を変える」を掲げ、民間企業や地方自治体の事業創出を支援する事業創造カンパニー。宇宙産業の発展・拡大のために活動する一般社団法人SPACETIDEと連携しKii Space HUBの運営を受託。Kii Space HUBでは今年度、県内企業における宇宙産業参入の裾野拡大に向けたイベント・Entry Seminarを多数実施。Action Workshopでは事業アイデアを整理するインプット・ワークショップのほか、ワークで整理した仮説検証・宇宙産業プレイヤーとのネットワーク構築の機会として、宇宙産業の様々なプレイヤー参加による壁打ち会を開催し、企業の宇宙産業参入を積極的に推進している。