創業60年の技術を宇宙へ-和歌山発・太洋テクノレックスがKii Space HUBで見つけた未来の商機

創業60年の技術を宇宙へ-和歌山発・太洋テクノレックスがKii Space HUBで見つけた未来の商機

和歌山県が令和7年度から展開する宇宙まちづくり推進事業「Kii Space HUB」。事業内では、実際に宇宙産業への参入を目指す企業支援を目的として、事業創造カンパニーの株式会社ゼロワンブースターから新規事業創出に必要な知見の提供や、宇宙ビジネスのキープレイヤーとの相談機会を提供する「Action Workshop」を実施している。ここでは、参加企業から、事業に参加したきっかけや得られた学び、今後の展望など生の声を全3回でお届けする。第1回目となる今回は、1960年設立、和歌山市に本社を構える太洋テクノレックス株式会社。フレキシブルプリント基板(以下、FPC)を中心とする「電子基板」事業を中核として展開し、精密機器メーカーとして多岐にわたる技術と製品でソリューションを提供する同社が見出した、宇宙産業参入への道筋とは。

太洋テクノレックス・森脇氏
ワークショップで整理した3C分析の内容と、今後のアクションプランをプレゼンする太洋テクノレックス・森脇氏

はじめに、宇宙産業への参入を検討し始めた背景をお聞かせください。

当社は電子基板業界で60年以上事業を続けており、特にFPCを強みとしています。長年の歴史の中で、何度か大きな波に乗ってきました。例えば、DVDやコンパクトデジタルカメラ、携帯電話が普及し始めた時期など、電子制御のモジュールが組み込まれるたびにFPCの需要が高まりました。そうした波に乗ることで、事業を拡大してきました。

しかし、ここ10数年で市場の構造が大きく変わってきました。ハードディスクがSSDになったり、スマートフォン市場が成熟したりと、当社を取り巻く事業環境が大きく変化し、そこへの対応や柔軟性が求められています。

そこで、新しい事業や分野に展開していきたいという狙いがあり、直近数年で医療機器や産業機器に力を入れてきたほか、さらにこれから大きく伸びていく分野として、会社方針で「宇宙産業」への注力が決定しました。

会社の方針を初めて聞いた時の、率直な感想はいかがでしたか。また、Kii Space HUBへ参加するきっかけについても教えてください。

正直、担当者としてこの話を聞いた時、驚きとともに魅力を感じました。宇宙というテーマは、ロマンがありますし、時流にも乗っていて、将来の展望が明るい業界だという期待感でいっぱいでした。

ただ、すぐに「どうアプローチするか」という壁にぶつかります。当社はFPCに関する電子基板事業という、一つの分野に特化してアプローチしていくことになりますが、宇宙という未知の業界でどう売っていくかが悩みの種でした。そこで、和歌山県のKii Space HUBという、言わば「信頼の看板」と、宇宙産業の専門家の方々のサポートを得て、FPCの新しい売り先と営業戦略を確立したいという明確な目標を持って参加を決めました。

特に、宇宙業界に絞った商品の拡販や営業戦略を考えるとなった時には、技術的なサポートだけでなく、事業開発や商品開発といった「ビジネスそのものを考える」といった点においてもサポートしてもらえる点に大きな期待を寄せて参加しました。

たすく・古友氏による講義、インプット
たすく・古友氏による講義、インプット

Kii Space HUBへの参加を通して、最も印象的だった学びは何でしょうか。

何よりもまず、業界の「横のつながり」の強さに驚きました。株式会社たすく(※1)代表の古友大輔さんや和歌山大学の秋山演亮先生(※2)といった、業界をリードされている方々との接点を直接持てる。これは、新規参入企業ではまず得られない機会です。特に宇宙業界は「人の繋がりが紡ぐビジネス」と言いますか、技術だけでなく、人間的な信頼関係が重要であることを実感しました。宇宙関連のイベントなどへ参加した際も、関係者からの紹介ですぐに話が通じるのです。

私たちのような新規参入企業にとって、これは大きなメリットだと感じています。宇宙業界は、実績がないと参入障壁が高い部分がありますが、和歌山県や専門家の方々との対話を通して「太洋テクノレックスは信頼できる企業だ」と思っていただけたこと。この「信頼のネットワーク」が、宇宙産業への参入にあたって大きな後押しとなるのです。

※1 株式会社たすく:宇宙機器と宇宙技術を応用したシステム開発を行うエンジニアリング会社。

※2 秋山演亮:和歌山大学学長補佐。はやぶさ・かぐや計画に参加し、内閣府宇宙政策委員会専門委員も務めた実績をもつ。

宇宙産業における技術や品質に対する考え方で、民生品業界との違いを感じた点はありますか。

全く違いましたね。民生品だと「とにかくコストを下げる」「不良が出なければ、検査や工程は減らした方が良い」となりがちです。しかし、宇宙業界は逆です。「多少時間やコストをかけてでも、安定した良いものを作る」という、品質を最優先する別の合理性がある。特に、修理できない環境で使われるわけですから、安定した製品を安定して供給する、この考え方を徹底的に教わりました。

この考え方を突き詰めることで、JAXA認定(※)に準ずる品質レベルを社内で追求していくことになりました。これは、結果として、車載や航空といった他の高難度分野へも技術を転用できるという、自社の技術力のポテンシャルを再認識する機会にもなりました。この学びは、宇宙だけではなく、他の事業の品質保証にも直結しています。

※JAXA認定:主に宇宙で使用される部品や材料、またはそれらを製造する企業の品質保証体制について、宇宙航空研究開発機構(JAXA)が定める厳しい基準を満たしていることを証明する制度のこと。

ゼロワンブースターによる講義・ワークショップの様子
ゼロワンブースターによる講義・ワークショップの様子

営業やサービスの面で、得られたものはありますか。

秋山先生のお話で特に印象に残ったのが、「サービスレベル」の重要性です。例えば、「発注のしやすさ」「迅速なレスポンス」「お客様の意図を汲み取った提案」など、お客様の立場でどれだけ親身になれるか。技術力だけでなく、お客様の利便性を追求することが、宇宙業界の競争力になる、といった内容です。

また、ゼロワンブースターの講義を通して、宇宙産業全体の市場・プレイヤーの捉え方や、そこにどのようなニーズがあるのか、自社の強みや提供価値が何で、それをどうビジネスにつなげていくかといった考え方を整理することができました。このプロセス、考え方は、宇宙領域に限らず、様々な領域における新規事業開発に活かせる普遍的なスキルとして改めて認識できたことは大きな収穫でした。

御社で働く社員の方々には、どのような変化がありましたか。

これが一番の驚きでした。Kii Space HUBへの参加を社内で公表したところ、社内の興味と一体感が一気に高まったのです。製造現場の社員から「今、宇宙のことに取り組んでいるんだろう?」と声をかけられるようになりました。普段はあまり話さない人たちからも話しかけられるようになり、一躍「宇宙の担当者」として社内の注目を集めるようになりました。

この変化がなぜ大きいかというと、将来、実際に製品が流れ始めた時、「これは例の宇宙のプロジェクトの製品だ」と、現場の社員が仕事に興味を持ってくれるからです。これは、外向きの営業戦略だけでなく、内向きの企業文化や社員のモチベーション改革にも非常に大きな良い影響を与えてくれました。

談笑している様子

最後に、これから宇宙ビジネスに携わる思い、期待についてお聞かせください。

正直、私たちのような部品メーカーは、普段は光の当たらない仕事です。どこに自社の製品が入っているか、なかなか人に説明しづらい。でも、私たちが関わった部品が、ロケットから飛び立つ人工衛星に乗って地球の上を回ることになったらと考えることがあります。

これは、仕事として何かを人に話せるものとして残した。という、本当に大きなロマンです。コストや納期といった厳しい現実の中でも「仕事をやっていてよかった」と思える、人生の大きなやりがいをこの挑戦がもたらしてくれています。「宇宙で自分の仕事(製品)が動いている」そんな想像をすると、本当にワクワクします。

株式会社ゼロワンブースター:「事業創造の力で世界を変える」を掲げ、民間企業や地方自治体の事業創出を支援する事業創造カンパニー。宇宙産業の発展・拡大のために活動する一般社団法人SPACETIDEと連携しKii Space HUBの運営を受託。Kii Space HUBでは今年度、県内企業における宇宙産業参入の裾野拡大に向けたイベント・Entry Seminarを多数実施。Action Workshopでは事業アイデアを整理するインプット・ワークショップのほか、ワークで整理した仮説検証・宇宙産業プレイヤーとのネットワーク構築の機会として、宇宙産業の様々なプレイヤー参加による壁打ち会を開催し、企業の宇宙産業参入を積極的に推進している。