【Kii Space HUB キックオフイベントレポート vol.1】地域から広がる宇宙ビジネス ― ロケット打上げサービスの最前線 ―
「日本の衛星の9割以上は海外のロケットを使って打ち上げている。これは非常にもったいない。日本の衛星は日本のロケットで打ち上げたい。」インターステラテクノロジズ株式会社の小川氏の言葉は、ロケット開発の意義を語るだけではなく、和歌山の企業に開かれつつある新しい機会を示していた。国内に打上げの選択肢を増やすことは、ロケット事業者だけの挑戦ではない。衛星をつくる企業、リスクを支える保険会社、そして部品・素材・加工・組立・検査を担う地域企業がつながって初めて、国内の宇宙産業は厚みを持つ。
6月4日に和歌山県主催で開催された「Kii Space HUB キックオフイベント」のトークセッション①「地域から広がる宇宙ビジネス ロケット打上げサービスの最前線」では、ロケット打上げを支える宇宙輸送・衛星・保険の各領域から、国内ロケット打上げの現在地と、和歌山県内企業に広がる参入可能性が語られた。
登壇したのは、超小型衛星の企画・設計から製造、運用、データ活用までを手がける株式会社アークエッジ・スペースの船曳敦漠氏、北海道・大樹町を拠点にロケット開発を進めるインターステラテクノロジズ株式会社の小川鉄平氏、和歌⼭県串本町・那智勝浦町にまたがるスペースポート紀伊(SPK)から⼩型ロケット「カイロス」の打上げに挑むスペースワン株式会社の佐藤信政⽒、宇宙保険やリスクソリューションの観点から宇宙ビジネスを支える東京海上日動火災保険株式会社の飯豊文香氏。モデレーターは一般社団法人SPACETIDEの佐藤将史氏が務めた。
SPACETIDE佐藤氏は冒頭、ロケット打上げサービスの最前線に立つ登壇者が集まる今回のセッションについて、打上げビジネスが持つ価値を、会場の参加者とともに広い視点で考える場にしたいと語った。その言葉どおり、議論はロケット開発そのものにとどまらず、衛星、保険、サプライチェーン、そして地域企業との接点へと広がっていった。
議論の中心にあったのは、「ロケットを飛ばす」ことそのものではなく、打上げを継続的な産業にするために、どのようなエコシステムを地域に作っていくのかという問いだった。
日本の打上げには、まだ圧倒的な余白がある
世界では年間300回を超えるロケット打上げが行われている一方で、日本のシェアは1%未満にとどまる。さらに、日本のスタートアップが開発する衛星の多くは、海外ロケットに頼って打ち上げられている。
小川氏は、インターステラテクノロジズが開発を進める小型人工衛星打上げロケット「ZERO」について紹介した。観測ロケットで培った実績を土台に、北海道・大樹町では工場と射場が近接する体制を整えつつある。日本で作ったものを日本で打上げられること。それ自体が、日本の宇宙産業にとって大きな強みになるという見方だ。
国としても2030年代に国内発の打上げを年30回まで増やす目標が掲げられている。しかし、回数を増やすにはロケット会社だけが頑張ればよいわけではない。小川氏は「打上げ高頻度化に向けては、サプライチェーンの強靭化が必要だ」とも語り、国内の供給体制づくりが不可欠だと強調した。
「日本の衛星の九割以上は海外のロケットを使って打ち上げている。これは非常にもったいない。日本の衛星は日本のロケットで打ち上げたい。」
— インターステラテクノロジズ株式会社小川氏
衛星側の切実なボトルネックは「部品が手に入らない」こと
打上げサービスにとって、衛星事業者は重要な顧客である。アークエッジ・スペースは、超小型衛星の企画・設計・製造・運用、さらにデータ提供までを一気通貫で担う衛星インテグレーターだ。
船曳氏が衛星開発の現場から示した課題は、非常に具体的だった。
「どこに一番ボトルネックがあるかと問われると、部品が手に入らないこと。」
— 株式会社アークエッジ・スペース 船曳氏
衛星には金属加工、基板、電子機器、センサー、駆動機構など、さまざまな部品が使われる。宇宙専用の実績がない企業でも、求められる仕様を理解し、品質・検査・トレーサビリティを説明できれば、サプライチェーンに加わる余地はある。ここに、県内ものづくり企業が関わる具体的な入口がある。
「射場が打上げに特化する」ために、周辺産業が必要になる
スペースポート紀伊から打上げに挑むスペースワンは、1〜3号機の経験を踏まえ、4号機に向けた対策を進めている。佐藤氏は、地元からの大きな声援への感謝とともに、次こそ期待に応えたいという思いを語った。
同時に、将来的に高頻度打上げを実現するには、県内企業の力が必要不可欠となる。ロケット本体は関東で作り、射場に運び込むという現在の形から、将来的には一部の組立やユニット化を協業先の県内企業が担う構想も示された。
「スペースポート紀伊は、打上げに特化していく。その流れを作れば、30機の次のステップにもつながる。」
— スペースワン株式会社 佐藤氏
この発言は、和歌山の企業にとって非常に重要だ。部品加工、素材、組立、検査、物流、設備、メンテナンス。ロケットそのものを設計・開発する企業でなくても、打上げサービスを支える役割は多い。佐藤氏はさらに、品質や要求事項を分かりやすく示す「日本版の宇宙規格」の必要性にも触れた。参入したい企業が「何ができれば関われるのか」を判断できる状態をつくることが、裾野拡大の鍵になる。
信頼をつくるのは、技術だけでなく「リスクの見える化と評価」
宇宙ビジネスには、地上の産業とは異なるリスクがある。東京海上日動の飯豊氏は、宇宙保険やリスクマネジメントの観点から、ロケット・衛星事業者の信頼性をどう評価し、信頼形成を支えていくのかを紹介した。
宇宙保険を引き受けられる保険会社は世界でも限られており、技術、実績、品質管理プロセスなどが厳しく見られる。だからこそ、失敗をゼロにすることだけではなく、失敗や課題から何を学び、どのように改善したのかを見える形にしていくことが重要になる。
「リスクを引き受けるだけではなく、事業者の評価・信頼性を見えやすくし、リスクを可視化するところでもお手伝いしている。」
— 東京海上日動火災保険株式会社 飯豊氏
国内でロケットを打ち上げられることは、衛星や部品の輸送、エンジニアの移動、手続きの面でもリスクを下げる。スペースポートは単なる発射場ではなく、サプライチェーン、人材、観光、地域経済への波及効果を生むインフラでもある。
ロケットを飛ばす町から、打上げを支える産業の町へ
セッション1を通じて浮かび上がったのは、国内打上げの拡大が「ロケット会社だけの話」ではないということだ。ロケット打上げサービスは、宇宙へ運ぶ衛星、その衛星を構成する部品や技術、そして打上げに伴うリスクを見極め、信頼を支える仕組みによって成り立っている。
和歌山には、すでにスペースポート紀伊という象徴がある。次に問われるのは、その存在を地域の産業へどう接続していくかだ。打上げを見守る町から、打上げを支える町へ。国内打上げ拡大の流れの中で、和歌山県内の企業の出番は確実に広がり始めている。